元請けになった方がいいのか、下請けのままがいいのか。塗装会社の社長さまから、いちばんよく聞かれる質問です。市場のデータを並べると、答えは全社が元請けを目指すべきではないになります。この記事では、転換すべき会社とそうでない会社の分かれ目を、着工戸数とリフォーム市場の実数から整理します。
まず、市場で何が起きているか
判断の前に、数字を3つだけ押さえてください。すべて公的機関か大手調査会社の発表です。
1. 新築は、はっきり減っている
2025年度の新設住宅着工戸数は71.1万戸。前年度比12.9%減で、リーマンショック後を下回る水準です。野村総合研究所は、2030年度に80万戸、2040年度には61万戸(2024年度比 約25%減)まで減ると予測しています。
2. リフォームは、減っていない
一方で住宅リフォーム市場は、2025年で7兆5,119億円(前年比2.5%増)。2026年は7.7兆円と予測されています(矢野経済研究所)。新築が減る中で、リフォームは横ばいから微増を保っています。
3. 職人は、確実に減っている
建設業の就業者数は685万人(平成9年)から483万人(令和5年)へ。しかも55歳以上が36.6%、29歳以下は11.6%です(国土交通省)。仕事が減る以上に、担い手が減っています。
出典:国土交通省「建築着工統計調査」および野村総合研究所「2040年度の新設住宅着工戸数は61万戸に減少」(2025年6月12日発表)/矢野経済研究所「住宅リフォーム市場に関する調査」(2026年)/国土交通省 建設業の担い手に関する資料。
この3つを重ねると、方向は1つに見えます。新築の下請けに依存している会社ほど、仕事の総量が細っていく。だから元請けへ、という話になります。
ただし、ここで全員が同じ結論を出すのは危険です。
元請け化を目指すべき会社
次のどれかに当てはまるなら、元請けへの転換を本気で考える価値があります。
- 元請け1社への依存が高い。売上の半分以上を1社に握られている状態は、相手の都合で来期の売上が決まるということです。今は仕事があっても、構造としては危うい。
- 新築の下請けが主力。着工戸数は2040年度に約25%減の見通しです。仕事の総量が減る領域に依存しているなら、行き先を作る必要があります。
- 単価を自分で決められない。塗料が値上がりしても価格に転嫁できず、利益だけが削られる。元請けとの関係上、交渉の余地がない。
- 社長か家族に、営業に回せる時間がある。ここが実は最大の条件です。元請け化とは「客を自分で連れてくる」ことなので、その担当者が要ります。
- すでにOB客や地元の紹介が少しある。ゼロから集客するより、既にある関係を掘り起こす方がはるかに早く立ち上がります。
中間マージンは20〜40%程度が目安と言われます。同じ工事でも、元請けとして受ければその分が自社に残る計算です。ここが元請け化の最大の魅力です。
下請けのままの方がいい会社
正直にお伝えします。元請け化がすべての会社にとって正解ではありません。次に当てはまるなら、無理に舵を切らない方がいい可能性が高いです。
- 職人だけで、営業に回せる人がいない。元請けになると、見積・打ち合わせ・近隣挨拶・クレーム対応・アフター連絡が全部自社に乗ります。現場に出ながらこれを回すのは、想像よりずっと重い仕事です。
- 公共工事や大型物件が主力。橋梁、工場、集合住宅などは、そもそも元請けになるのに実績と許可と体力が要ります。ここで安定して指名されているなら、それは価値ある地位です。戸建て元請けに移る必然性は薄い。
- 技術で指名されている。特殊塗装や難易度の高い工事で「あの会社でないと困る」と言われているなら、それは下請けであっても交渉力を持っています。
- 元請けが複数あり、価格交渉ができている。依存先が分散していて単価も通るなら、構造としては健全です。
元請け化の本当のコストは、広告費でもホームページ代でもありません。社長の時間です。現場に出ながら集客も接客もやるのは、人手が足りない今の業界でいちばん現実的でない選択になりがちです。ここを見誤ると、元請けの仕事は減らせないまま新規も取れず、疲弊だけが残ります。
第三の道。両方を残して、比率を変える
実は多くの会社にとって現実的なのは、どちらかに振り切ることではありません。
下請けの仕事は残したまま、元請けの比率を少しずつ上げていく。これがいちばん事故が少ない道です。
下請けの仕事は、営業しなくても来る安定収入です。これを一気に切ると、キャッシュが止まります。一方で元請けの仕事は、利益率は高いが立ち上がるまで時間がかかる。だから下請けで食べながら、元請けを育てる。
目安として、まず元請けを月1件つくることを目指してください。年間12件。戸建て1件が仮に100万円前後なら、それだけで売上の構造が変わります。全部を入れ替える必要はありません。
そして、塗装だけで完結しない方向へ
もう1つ、市場の数字が示している変化があります。
着工が減り、人口が減るということは、1つの地域にいる施主の数が減っていくということです。同じ数の会社が、より少ない施主を取り合う形になります。
この状況で効くのは、新しい客を増やすことより、1人の施主から受けられる仕事の幅を広げることです。
- 外壁を塗ったお宅は、屋根も、雨樋も、ベランダの防水も同じ時期に傷んでいます
- 足場を組むなら、屋根と外壁を一緒にやる方が施主の負担も減ります
- 塗装の相談から、水回りや内装の相談につながることも珍しくありません
リフォーム市場が7.5兆円で微増を保っているのは、この「住み続けるための工事」が減らないからです。塗装専門店から、外まわり全体、さらには住まい全体を見る会社へ。看板を変えるという意味ではなく、施主から見て相談できる範囲を広げるということです。
すでにやっている会社は多いはずです。屋根も防水も鉄部も、実際には対応している。でもそれが施主に伝わっていないケースがほとんどです。ホームページに外壁塗装しか書いていない、名刺にも塗装としか書いていない。それだと屋根の相談は他社に行きます。
今日からできること
大きな転換は要りません。順番はこうです。
- 自社の売上の内訳を書き出す。元請けと下請けの比率、依存している会社の名前と割合。ここが分からないまま方針は決められません。
- 営業に回せる時間が誰にあるかを確認する。社長か、奥様か、事務の方か。誰もいないなら、元請け化は時期尚早です。
- できる工事を全部書き出す。屋根、防水、シーリング、雨樋、鉄部、内装。実際にやっているのに外に出していないものが必ずあります。
- それをホームページとGoogleマップに載せる。施主は「屋根 塗装 ◯◯市」で探します。載っていなければ、その相談は来ません。
- 元請け月1件を目標にする。全部を変えず、比率を動かす。
まとめ
市場の数字はこう言っています。新築は2040年度に約25%減る。リフォームは横ばいから微増。職人は減り続け、55歳以上が36.6%。
だから方向としては元請け化とリフォーム対応の幅を広げることが正しい。ただし営業に回せる人がいない会社が無理に元請け化すると、疲弊するだけです。公共工事や技術で指名されている会社は、その地位を守る方が合理的な場合もあります。
全部を変える必要はありません。下請けで食べながら、元請けを月1件育てる。そして、すでにできる工事を施主に伝わる形にする。それだけで数年後の景色が変わります。
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